光合成に始まる、現代薪火暮らし

「ベウラの郷」は、焼き物修行を終え、1984年、独立地としてこの地(茂木町大瀬)に窯を築き,「ベウラ陶房」を創設したことに始まります。

陶芸とキリスト信仰のこと 陶芸の道に入るきっかけは、炎の詩人といわれた京都五条坂の河井寛次郎の生命観に満ちる陶芸との出会いを通してでした。自分は学生時代から「本当のいのち」、「いのちの在処」を求続けておりましたので、「陶芸でこうゆう表現ができるのか。陶芸生活の情熱の中に命を得よう」とこの道に入りました。焼物修行が進み4年目、出口の見えぬトンネルの中のような状態に陥ってしまったとき、「人間には神の光のもとに立つという大命題がある」というハイデガーの言葉を思い出し、教会を訪ね、そうして15年の魂の遍歴を経て、36歳、キリスト者としての作陶と山暮らしというの新たなる日々が始まることとなった次第です。

恵みの受け手として 独立の時期も近づいており、陶芸の道をこのまま進むべきか今後の進み方について祈る中で、『恵みの受け手』というフレーズが上より降りてきました。赤松を燃やして得られる1300度ほどの温度と、粘土、釉薬か溶けて焼き物となる温度が同一点であるのは不思議なこと。薪の赤松も粘土も器の材料として天からの恵みとして人間に与えられている。自然界のものを天来の恵みとして、「恵の受けてとして」仕事と暮らしを組み立てて生きよう、という思いに至り、窯屋根の掘立柱や、梁にする松材を近くの山から切り出すことからの始まりとなりました。(随想のページの「恵みの受け手として」を参照頂ければ幸いです)

環境、敷地のこと 那須からの清流那珂川が流れるこの地は県立那珂川自然公園の中にあり、日本の里山百選に選ばれた地でもあります。一帯が雑木山の柔らかな景勝をなし、春の山桜や秋の川霧の雲海の見どころとなっており、天然アユの名所でもあります。

作陶生活の傍ら畑を拓き、また藪などを整備するうちに昔の棚田が現れて、田んぼ、池やビオトープもでき、敷地も次第に五千坪ほどまでに広がり、自然との調和を願いながら、野の花や山菜、木の実など山里の自然と自然素材を喜びとして生きる雑木山の中の一つの生活域となって参りました。展示ともてなしのための茶室も備わり、この雑木山の敷地はいつしか「ベウラの郷」と呼ばれるようになりました次第です。

椿 巌三  野の花とその生け方の説明をしております
「ベウラの郷」の山庭風景 向こうに八幡山。鎌倉縁の地です

窯を焚き継ぎ、個展での作品発表を重ねるうちに早くも創設から40年にもなろうとしております。皆様のご支援のおかげと心より感謝を申し上げます。

 

ロクロ場風景と野花菖蒲

この度のコロナ禍の中で社会も個人もこの先の生き方を問われることとなりました。「ベウラの郷」はこの間に更なる自然回帰の道を決意いたし、自然農法の畑と、ついには薪火と炭による煮炊きの暮らしを始めるに至りました。薪の火は単なる熱源ではなく心に働きかけるもう一つの働きをものをも含んいることに気付かされます。

 棚田風景

全宇宙の中で、知られる限りでは、水が湧き、植物が育ち、花が咲き、火を燃やすことのできる星は地球だけでしょう。水は山の麓に湧き出でて流れ、人はそこに田畑を起こし、山からの焚き木を燃やし火を囲みます。、「山は青きふるさと、水は清きふるさと・・・」。山里の暮しは人間が自然と共に生きる原点であり、本来の天地人の喜ばしき調和の世界を示しています。山里のかまど、囲炉裏、その食卓こそはまさに宇宙、自然界の恵みとひとの集合点であり、すべてを受けて共に恵みをいただき、喜びと感謝のうちに賛美を捧げ返すところであるでしょう。そういう意味では炉の炭火を囲む茶席、茶の湯は、自然の中で生きる人間の天地人の関係の表象というべきものでしょう。

近年の新たなる思いは、人間はこの地上、自然界は創造主からの贈り物であり、茶席の招きのように人はこの自然界を喜び楽しむように招かれているということです。茶の湯は神様の人間へ秘跡といえるでしょう。(秘跡=そのことを見るとひな形のようがそこから神がわかる出来事のこと)。この自然界に人間を招いた方、真の亭主は創造主であると考えると人間の位置がわかるように思うのです。

地上の生物の生存のすべてを支えているのは、人知を超えた光合成の働きです。光合成は生物が生存に必要な酸素と炭水化物(空気と食物)を木の葉の中の最大効率の工場で一瞬のうちに作り出し、太陽エネルギーを人体が使えるエネルギーに変容させる働きをなします。自然回帰とは光合成の超神秘への驚きと感動の中で、それを地上の循環の原理として尊び選択することともいえるでしょう。「ベウラの郷」は、光合成を軸とした自然回帰の生活に入ろうと思いました。すなわち太陽の光と光合成によって成ったものの中での循環の暮らしに入ろうとしております。天よりの贈り物である自然界とその恵み、そのもてなしに創造主へ感謝と賛美を捧げる、仕事、生活と祈りがひとつになった暮らしを願いながら。

※ 『ベウラの郷』の「ベウラ」は、ヘブライ語で、訳せば、「あなたは愛されている」の意味です。

 

2005年、窯場の前で。

光合成は地上のすべての生き物の生存を支える反応です。

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